ボクの仕事は厳密にいうと「IT工事」です。「IT」だけじゃないんですよ。
なので、「パソコンの前で行う」デスクワークの他に、現場で作業をすることがあります。
ブルーカラーの作業着を着て軍手して、ケーブル配線工事や、ラック(サーバとかのIT機器を固定する棚)の設置作業、・・・という土方作業です。人によっては、アンテナ工事などの高所作業や、ドリリングなんかもしてます。本当に工事ですよね。
photo credit: 54kan 作業着 via photopin (license)
こういう体育会系の作業をしていて、昔から思う事。それは、
「デスクワークと比べると、工事現場での仕組みは、すっごい良く出来てる」ってことなんですよ。
どういうことか説明しましょう。普段デスクワークの人も、工事現場で作業をしている方も面白い内容になると思います!
ワープ出来る もくじ
工事現場とデスクワークとの違い
まず、工事現場とデスクワークとの一番大きな違いってなんでしょう?
それは何といっても、
「死ぬ危険性がある」ということです。
デスクワークは、安全です。まぁ、過労死とかはありますが、「キーボード打ち過ぎて死亡」なんてことは無いですよね(笑)。直接的には、安全性は保障されてるんです。
これに対して工事では、数百キロの物を動かすこともあれば、高電圧の物品を触ることも、建物の屋上や高いところでの作業もあります。物に下敷きになったり、感電してヤケドしたり焼死してしまったり、不注意で落下したり・・・工事現場ではこうした危険性が常につきまといます。
ぶっちゃけ、工事現場にいる人って、頭を動かすより、身体を動かす方が得意な人ばっかり。
多数の業者が入り乱れて、それぞれの仕事を一生懸命やっている荒現場では、なおさら「今やってる作業に、どんな危険性があるか?」を常に考えて動ける人なんていません。
そこで昔の先輩たちは、「いかに安全に、工事を行うか?」と数々の仕組みを作りました。
今では、そんな仕組みが工事現場で当たり前に行われています。
ご自分でもちょっと考えてみてください。「体育会系のおっさん達に、どんな仕組みを与えたら安全に作業が出来るのか?」これ、考えると結構難しいですよね。
工事現場には、こうしたことを考え抜いた先人の工夫や知恵が沢山転がっています。今回はその話をしましょう。題して、「工事現場の脳科学」です。
指差し呼称
まず一つ目の指差し呼称は、確認方法の一つです。
ただ目で見て確認するだけではなく、目的の物を指差して、声に出して「〇〇、良し!」という動作をつけて確認する方法です。バスの運転手や、鉄道の駅員さんもやっていますね。駅で見かける人も多いでしょう。
▼こういうの。「線路安全確認、良し!」みたいな。
photo credit: timtak Finger Pointing Saftety Checks via photopin (license)
実際、ボクも重要なシステム設定の前など、特に確認が必要な重要作業に関しては、パソコンの画面を指差して、声に出して確認します。ぶっちゃけ、やるときはこっ恥ずかしいです(笑)
それにしてもなぜ、こんなことをやるんでしょうか?それは、この動作を入れることで、脳がより明確に確認しようと動くようになって作業精度が上がるからです。
実験もされていまして、厚生労働省のページにも、紹介されています。実験でも有用性が確認された、確かな方法なんですね。ふむふむ。
対象を指で差し、声に出して確認する行動によって、意識レベルを「フェーズⅢ(脳が活発に動き、思考が前向きな状態)」に上げ、緊張感、集中力を高める効果をねらった行為とされています。
(中略)
指差呼称だけでヒューマンエラーの根絶を実現することはできませんが、上記の実験、研究から、指差呼称は、「意識レベルを上げ、確認の精度を向上させる有効な手段」であるといえます。
TBM-KY
次にお話するのは、「TBM-KY」です。これは皆さん、あまり聞いたことがないでしょ?
「Tool Box Meeting ? Kiken Yochi」、すなわち「ツールボックスミーティングー危険予知」の略です。
最後だけ危険予知って・・・
日本語やないかい!と突っ込まれそうですが、それは気にしないでください(笑)
何のことかというと、作業開始前に、作業員が全員集まってその日の作業内容を確認するときにやる打ち合わせです。
そんな「TBM-KY」。普通の打ち合わせではなく、こんな議題で進んでいくんです。
- 「その日の作業では、どんな危険があるか?」を洗い出す
- 「何が一番危険か?」を決定する(危険予知)
- 「その危険を避けるために、どういうことを気を付けるか?」考える
- 最後に気を付けよう!と決めたことを、参加者全員で指差し呼称する
例えば、LANケーブルの配線工事の時を考えると・・・
1.「その日の作業では、どんな危険があるか?」を洗い出す
ケーブルの配線工事には、どんな危険があるでしょうか?みんなで考えだします。このとき重要なのは、「なんで、その危険があるのか?」も含めて考えるんです。後で対策を考えるために必要ですからね。
- 「配線中のケーブルが整理されていないので、ケーブルに転んで、ケガをする」
- 「配線するために床に開けた穴に気付かないで、作業員がハマってケガをする」
- 「配線する先の機器番号が分かりづらいので、配線を間違って障害が起きる」
などなど、あくまで「〇〇だから、××する」という形で書きます。
2.「何が一番危険か?」を決定する(危険予知)
考えられる危険を洗い出したら、
「その中では、何が一番危険か?気を付けるべきか?」をみんなで決めます。
こうすることで、一つだけに集中することが出来ます。また、一つだけとはいっても、一度はみんなで危険を洗い出しているので、忘れることはありません。朝の作業前にすることで、意識下に危険!注意!を刷り込むことが出来るんですね。
例えばここでは、先ほど上げた中で、
「配線するために開けた、床の穴に気付かないで、作業員がハマってケガをする」
が一番危険だ!となったとしましょう。
3.「その危険を避けるために、どういうことを気を付けるか?」考える
その日の作業で一番危険で気を付けなければいけないことを決めたら、「その危険を避けるために、どういうことをするか?」を決めます。
「配線するために開けた、床の穴に気付かないで、作業員がハマってケガをする」
これを避けるために出来ることは何でしょう?すでにこの原因は考えていますよね。そう。床の穴に気付かないから、ケガをするんです。
床の穴に作業員が気付くようにすればよいので、対策としては以下のことが浮かぶでしょう。
- 穴に気付くように、穴をカラーコーンで囲む
- 穴に気付くように、作業員同士で「そこ、穴あるよ!」と声掛けしあう
- そもそも穴を開けないように、作業方法を変更する
などなど。
その中で、一番良いと思われる方法を選びます。この場合では・・・
「穴に気付くように、穴をカラーコーンで囲む」にしましょう。
▼参考イメージ:カラーコーンってこんなんです↓
決めたら、いよいよTBM-KY最後のステップです!
4.最後に気を付けよう!と決めたことを、参加者全員で指差し呼称する
決めた事を、最後にみんなで指差し呼称します。
まず、仁王立ちになります。左手を腰に当てて、背筋は伸ばします。右手は人差し指で指差す形に。
▼人差し指に力をこめます
全身の神経を右手人差し指に集中したら、
元気よく右手を振りかぶって・・・
注意すべき対象物(カラーコーン)目がけて振り下ろすとともに、次の言葉を全員で元気よく叫びます!!
「カラーコーン設置、良し!!」と。
▼こんな感じで指先に心をこめるんだ!!
出典:国際安全衛生センターHPより
あ、今思ったでしょ。
「おいおい、冗談きついぜ」と。
いや、本当です。真っ当な工事会社は漏れなくこのようなTBM-KYをやってます。wikipediaにも載ってますから!ね!?本当だよ!?
とまぁ、TBM-KYをやることで、作業員一人一人が、その日の作業を注意深く安全に出来るし、常日頃危険に気付くことが出来るようになる、という至極真っ当な手法なんですね。
その日やったTBM-KYは、ボードにまとめて、みんなの目の留まるところに置きます。
3S活動
お次にお話しするのは、3S活動。。。3つのS(エス)活動です。
3つのSとは?要らないものを撤去する「整理」、必要な物を必要なときにすぐ取り出せるようにしておく「整頓」、ゴミを無くしてキレイな状態にしておく「清掃」です。
これら3つを確実に行うことで、工事で使う道具は、決められたところに必ずおいておかれている状態に出来ます。余計な探し物をしたり、作業に不要なものが目に入らなくなるんです。
こうすることで、脳が余計なことで混乱することなく、作業に集中できます。余計な物につまづいたり、ひっかかることもなくなりますから、安全性も確保できるんですね。
▼決められたところにきちんと物が置いてある。気持ち良いです。
まとめ
工事現場に散らばっている脳科学の仕組みを3つ紹介しました。いかがでしたでしょうか。デスクワークに携わっている会社員のみなさんには、目新しい内容だったと思います。
これ、「ふーん。工事現場はこうなってるのかぁ」と感心するだけでなく、デスクワークにも色々応用できますよね。
たとえば指差し呼称。別に声に出さなくても良いんです。間違えたら情報漏えい問題にも繋がる、メールの宛先確認に、とりあえずパソコンの画面を指差して確認してみてはどうでしょう?ブロガーなら、記事更新する前に内容、パーマリンク、更新日時を指差しするとか?!それなら掛け声は「記事更新、ヨシ!!」ですね(笑)
それだけでも、普通の確認よりも断然確認の効果がありますよ!
▼まずはここから工事現場の感じだけでも掴んでみましょう(笑)
▼ブルーカラーの気分を味わえます。作業着には、ペンやら小物やらのポケットが沢山あるので、地味にオススメです。
▼脳科学アプローチから、簡単にできる、すぐやるための秘訣。